ドイツ語の不規則動詞を整理してみる vol.3【幹母音 e, a】

今回は幹母音が e と a の動詞です。よく使う動詞が多くみられます。今回の動詞は,過去形・過去分詞だけでなく,現在形でも主語によって母音が変化するので,最初に触れておきたいと思います。

幹母音 e

幹母音が e の動詞は,現在形でも主語によって母音が変化します。主語が二人称単数親称 du,または三人称単数(er, es, sie など)のとき,長母音(eh も含む)ならば ie, 短母音ならば e になります。例えば,

sprechen「話す」は

   du sprichst, er spricht

empfehlen「勧める」は

   du empfielst,  er empfiehlt

のようになります。

以下の分類で分かる通り,過去形・過去分詞の変化は母音の長短でパターンが分かれるわけではないようです。主なパターンは3つあります。

e-a-o

befehlen「命令する」 befehlen-befahl-befohlen

bergen「救う」 bergen-barg-geborgen

bersten「割れる」 bersten-barst-geborsten

brechen「折る」 brechen-brach-gebrochen

empfehlen「勧める」 empfehlen-empfahl-empfohlen

erschrecken「驚く」 erschrecken-erschrack-erschrocken

gelten「価値がある」 gelten-galt-gegolten

helfen「助ける」 helfen-half-geholfen

nehmen「取る」 nehmen-nahm-genommen☆

schelten「叱る」 schelten-schalt-gescholten

sprechen「話す」 sprechen-sprach-gesprochen

stechen「刺す」 stechen-stach-gestochen

stehlen「盗む」 stehlen-stahl-gestohlen

sterben「死ぬ」 sterben-starb-gestorben

treffen「当たる」 treffen-traff-getroffen

verderben「腐る」 verderben-verdarb-verdorben

werben「宣伝する」 werben-warb-geworben

werfen「投げる」 werfen-warf-geworfen

 

発音の補足しておくと,過去形の母音 a の長短は,基本的に後に続く子音に従い,1つならば長母音「アー」,2つ以上ならば短母音「ア」になります。が,子音が1つのものはありませんね。注意が必要なのが,子音が2つあるのに長母音になるものです。

まず -ah ですが,h に前の母音を長くする役割があるので,その役割通り発音すればよいです(例: empfahl「エンプファール」)。そのほか, -ach も a は長母音になります(例:brach「ブラーハ」)。なお ch は現在形では硬口蓋の方の発音「ヒ」(ich-laut)ですが,過去形は母音が a なので軟口蓋のほうの発音「ハ」(ach-laut)になります。過去分詞も o なので ach-laut です。

もうひとつ,nehmen の過去分詞が genommen という形になるので注意が必要です。 genohmen にはならずに,o 単独となり,短母音なので m が二重になります。

 

※幹母音が e ではないのですが,gebären「産む」も 

gebären-gebar-geboren

-a-o と変化します。幹母音が ä の動詞はめったになく,発音も e とほぼ同じなので,ここに含めておきます。

 

e-a-e

過去分詞が現在形と同じ母音になります。ということは,前綴りが付いている動詞では,現在形と全く同じ形になります。

essen「食べる」 essen-aß-gegessen

fressen「食べる」 fressen-fraß-gefressen

geben「与える」 geben-gab-gegeben

genesen「直る」 genesen-genas-genesen ※冒頭に述べたような現在形での母音変化をしません。

geschehen「起こる」 geschehen-geschah-geschehen

lesen「読む」 lesen-las-gelesen

messen「計る」 messen-maß-gemessen

sehen「見る」 sehen-sah-gesehen

treten「入る」 treten-trat-getreten

vergessen「忘れる」 vergessen-vergaß-vergessen

 

-essen の動詞が過去形で -aß になっていることからわかるように,このパターンでは過去形の母音 a はすべて長母音になります。①と比べると,幹母音の後の子音が1つのものが並んでいますね。

※ここでも例外を1つ。schrecken「急に冷める」という動詞です。

schrecken-schrack-geschreckt

母音変化は e-a-e ですが,過去分詞が規則動詞のように -t で終わっています。過去形,過去分詞のどちらを例外扱いとするかで扱いが変わるので中途半端ですが,一応ここに含めておきます。

 

e-o-o

過去形と過去分子の母音が同じなので,過去形に ge-en をつければ過去分詞のできあがりです。

なお,bewegen, heben, scheren の3つは,冒頭で述べたような主語による現在形の母音変化は起こりません。

bewegen「~の気にさせる」 bewegen-bewog-bewogen

dreschen「脱穀する」 dreschen-drosch-gedroschen

fechten「フェンシングをする」fechten-focht-gefochten

flechten「編む」 flechten-flocht-geflochten

heben「持ちあげる」 heben-hob-gehoben

quellen「湧き出る」 quellen-quoll-gequollen

scheren「刈る」 scheren-schor-geschoren

schmelzen「溶ける」 schmelzen-schmolz-geschmolzen

schwellen「膨れる」schwellen-schwoll-geschwollen

 

※幹母音が異なりますが,次の2つも含めておきます。

gären「発酵する」 gären-gor-gegoren

schwören「誓う」schwören-schwor-geschworen

 

以上3つのパターンがありましたが,見分ける方法はあるのでしょうか。まず,①e-a-o と変化する動詞は,すべて幹母音 e の発音が短母音「エ」です。stehlen など h があるせいで実質長母音「エー」となっているものもありますが,いずれも e の後の子音が2つ以上あるものがここに分類されています。すなわち,現在形の母音変化で i となるものです。

それに対して,②e-a-e になるのは,上でも触れたように,-ssen または e の後の子音が1つで長母音「エー」と発音されるものです。-ssen を除き,現在形の母音変化で ie となるものです。

③e-o-o となるものは e が長短いずれのものも含まれるので,見分けるのは難しいです。しかし,長母音になる bewegen, heben, scheren は,どれも「現在形で母音変化をしない」ものになっています。

以上の考察をまとめると,分類については次のようにまとめられます。

幹母音 e の変化パターンの分類

・-ssen または幹母音 e が長母音でかつ現在形の母音変化を起こすものは,②e-a-e の変化になる。

・幹母音 e が長母音で,現在形の変化を起こさないもの,または e が短母音で -chten,  -llen, -lzen, -schen のものは,③e-o-o の変化になる。

・その他,幹母音 e が短母音のものは,①e-a-o の変化になる。 

 

幹母音 a

 e の時と同じように,現在形でも主語によって母音変化が起きます。 二人称単数親称,三人称単数のときに a がウムラウトし ä となります。

例:fahren「乗って行く」は

   du fährst, er fährt 

のようになります。

a を幹母音とする動詞は,総数に比べてパターンが多いです。パターンごとの規則性にはっきりしたものは見出せませんでした。また,a でなく au の二重母音が幹母音となっているものもあります。これも核となる母音は a なので,一緒に含めることにしました。

a(au)-ie-a(au)

hauen は主語による現在形の母音変化は起こりません。

blasen「吹く」 blasen-blies-geblasen

braten「焼く」 braten-briet-gebraten

fallen「落ちる」 fallen-fiel-gefallen

halten「保つ」 halten-hiel-gehalten

hauen「打つ」 hauen-hieb-gehauen☆ちょっと特殊

lassen「させる」lassen-lies-gelassen

laufen「走る」 laufen-lief-gelaufen

raten「助言する」 raten-riet-geraten

schlafen「眠る」 schlafen-schlief-geschlafen

 
a-i-a

fangen「捕らえる」 fangen-fing-gefangen

基本的にはこの1例のみです(派生として empfangen「受け取る」など)。

 

また,hängen「掛っている」も

hängen-hing-gehangen

と変化をしますので,ここに入れておきます。変化以上に注意が必要なのが,この動詞,他動詞として「掛ける」という意味でも使えます。ただしそのときは,規則変化をします。

自動詞の例文:

Das bild hing an der Wand. / Das bild hat and der Wand gehangen.

「その絵は壁にかかっている」

他動詞の例文:

Er hängte das bild an die Wand. / Er hat das bild an die Wand gehängt.

「彼はその絵を壁にかけた」

 
a(au)-o-o

saufen 以外は主語による現在形の母音変化は起こりません。

erschallen「鳴り響く」 erschallen-erschollen-erschollen

saufen「飲む」 saufen-soffen-gesofen

saugen「吸う」 saugen-sog-gesogen

これもウムラウト版として,wägen「じっくり考える」があり

wägen-wog-gewogen

と変化します。

 
a-u-a

fahren「乗り物で行く」 fahren-fuhr-gefahren

graben「掘る」 graben-grub-gegraben

laden「積む」 laden-lud-geladen

schaffen「創造する」 schaffen-schuf-geschaffen

schlagen「打つ」 schlagen-schlug-geschlagen

tragen「運ぶ」 tragen-trug-getragen

wachsen「成長する」 wachsen-wuchs-gewachsen

waschen「洗う」 waschen-wusch-gewaschen

 

例外はありませんが,schaffen に注意です。上の不規則変化をするのは,「創造する」という意味のときで,「成し遂げる」という意味で用いるときは規則変化です。同音異義語とみたほうがよいでしょう。

例:

Ich schuf eine imaginäre Stadt. / Ich habe eine imaginäre Stadt geschaffen.

「私は架空の都市を創作した」

Sie schafften die Arbeit endlich. / Sie haben die Arbeit endlich geschafft.

「彼らはようやく仕事をなし終えた」

 

以上の4パターンは語尾によって見分けることができそうなのですが(例えば,-ten は ①a-ie-a,-schen は ④a-u-a など),それぞれ該当する動詞が少ないので,それほど意味はないと思います。いちおう,以下にパターンごとの語尾をまとめておきます。

 

①a-ie-a

  -fen, -llen, -lten, -sen, -ssen, -ten

②a-i-a

  -ngen

③a-o-o

  -llen, -(au)fen, -(au)gen

④a-u-a

  -ben, -chsen, -den, -ffen, -gen, -(h)ren, -schen

 

①と③で -llen が重複していますが,それぞれ ①fallen ③erschallen のみなので,そのまま覚えちゃうのがいいです。

 

これでひと通りパターンを出しつくしました。次回は,これまでのまとめと,パターンから漏れたものや混合型変化のものなどをまとめていきます。